「ブレイキング・バッド」全話見たので感想など(※ネタバレ)

大変に評判が良いので前からずっと気になりつつつい最近まで手を出さずにいたドラマ「ブレイキング・バッド」だけど、ようやく全部見たので感想などを長々と。

ちなみに結末に関してバンバン触れているうえに他の映画やドラマ等に対するネタバレもしれっと含んでいるのでご注意を。

あと始めに断っておくけれどもかなり長文になるだろうと。でもこれは自分のための記録と、あとは、同じようにブレイキング・バッド廃人になっている同士が偶然に検索などで見つけてくれて読んでくれればいいという趣旨で書いているので。

 

 

f:id:tiffany_queen:20150523181116j:plain

だいたいどこでもあらすじを見ると、真面目な高校教師が末期ガンで余命僅かと診断され、家族にお金を残す為にドラッグを製造するようになるという話、という感じで書かれていることが多いのだけど、まあ確かにその通りではあるんだけど、この物語の一番大きな柱はなんといっても、主人公と、彼のパートナーである親子ほど年齢の離れた若者との濃密で複雑な関係である。あと、それ以外の、周りの家族との関係も非常に重要なんだけど。

わたしはクリント・イーストウッド監督作では、アメリカ版「生きる」(黒澤明監督の)みたいな「グラン・トリノ」がなんといっても一番お気に入りなんだけど、このブレイキング・バッドもざっくりと言えばだいたいあんな感じである。グラン・トリノはもっともっと高潔な感じで、お金の話とかは出てこないけど。あと、主人公が殺す人の数が少なすぎる(笑)。

最近シーズン1の最終回を見終わったEmpire 成功の代償もそんな感じのストーリーなのかと最初のうちは思っていたんだけど、終盤でなんと主人公がそもそも死ぬような病気ではなかったと判明してこれは今後どう転がっていくのか予測つかない(っていうか、あの終わり方で、たぶんシーズン2もあるよね?)。

それはさておいて、まずこのシリーズを見始めた時に、シーズン1の中盤まではほとんど何も起こらないようなエピソードが数話続いて正直ちょっとつまらないかもなあと思ってしまったりもしたんだけど、あとからめちゃくちゃ面白くなってくるから、という話を聞いていたのでとりあえずそのままなんとなく見続けていたら、たぶんシーズン2の中盤くらいからがつんとハマってしまってそれ以降は連日ぶっ続けで見続けて一気に最後までいってしまった。シーズン2の中盤というか、「荒野の4日間」だよね。あれは全体通した中でも特にお気に入りの、素晴らしいエピソードだと思う。ウォルターとジェシーの関係性があの一話に凝縮されている気がする。あれ以降、二人の関係がより深まっているというのもあるし。

中盤以降でも時々ほとんど何も起こらないようなエピソードはあって、全体的にとてもじっくりゆったりと話を進めていくんだけど、他のドラマでは一話にこれでもかこれでもかってぐらいにてんこ盛りみたいなパターンが多かったのでこれもまた新鮮であった。ストーリー面だけでなく、登場人物も他のドラマと比較して少なめで濃密に凝縮されているというのも大きな特徴の一つだと思う。他のドラマだとシーズン5まであればその途中でかなり登場人物の入れ替えがあるものだけど、ここではほとんどずっと最初から最後まで同じメンバーでいく。

荒野といえば、この物語はニューメキシコアルバカーキが舞台で、ほとんどずっとそこだけで話が展開していて、ロケもほとんどそこで行われている。たまにメキシコの場面もちらっと出てくることはあるが。荒野のシーンもたびたびあるんだけど、このシリーズを見て初めて、荒野というものがこんなにも美しく切なく愛おしいものであるということを知った。もともと海外旅行には全然興味はなかったんだけど、死ぬ前に一度はアルバカーキへ行かなければ、という目標もできた。

荒野と同じくらい、特に美しいのはドラッグ製造シーンでシリーズ中何度も出てくるが、個人的に一番だと思うのはシーズン5の第3話で、ようやく誰にも雇われず監視も受けず、ウォルターとジェシーの二人きりで作業に打ち込めるところ。合間にテレビを見ながら雑談をするところも良い。で、あの子と結婚するつもりなのか?とかって、本当に父親と息子の会話だよねえ。二人で最初にキャンピングカーで仕事を始めるのも最高なんだけど。あのキャンピングカーをつぶすシーンは本当に切なかった。その後で、シーズン5で何度かキャンピングカーの話が出てくるたびにも泣きそうになってしまったけど。

f:id:tiffany_queen:20150523182951j:plain

もちろんドラッグの製造方法について、自分でも真似できるくらい詳細に描写されるわけではないんだけど、ドラッグの製造以外にも爆弾や毒薬や車のバッテリーを手作りしたり、屍体を「化学的に分解」するためにはホームセンターで何を買えばいいか、浴槽とかでやったら絶対にダメ!とかたくさんためになるところもある(笑)。

 

主人公のウォルター・ホワイトは物語の最初は50歳で享年52歳、もともととても真面目で温厚な人間だったのに、悪の道に進んで変わってしまうみたいに書かれているんだけど改めて最初からまた見直してみるとシーズン1の前半の方でもすでにその片鱗はたびたび見せているし、もともとかなり自分勝手だし気が短いしそのせいで余計なトラブルを招く素質は持っていたんじゃないかと。とにかく周りの人をどんどん不幸に陥れるパワーがとてつもない。本人には全くそういうつもりがないんだけど。彼と関わった人はもれなくものすごく不幸になるか死ぬかどっちかという感じである。

あと、最初から最後まで着ている服が、裏稼業がメインになってもずっとあのワイシャツにジャージ的な上着を合わせるとか、いかにも学校の先生っぽい超絶ダサファッションがこれまた絶妙にチャーミングでいいんだよね。まあ確かに裏稼業を始めたからといっていきなり服装が変わったら怪しすぎるからあのままでいいんだけど。あとはやはりなんといっても、演じているブライアン・クランストン自身のチャーミングさが大きい。しかもあの超絶ダサい服装のスタイリングも彼自身が考えているのだとか。あのハイゼンベルクの帽子なんかも。彼が出演している他の映画などもいくつか見たんだけど、個人的には、ジュリア・ロバーツの夫役の「幸せの教室」が良いね。あまりにもダメダメすぎて、そこが可愛いというか…

ウォルターは最初は銃を持つことすら心もとない感じだったのが、中盤以降はばんばん人を銃殺するのも平気になってしまうのだけど、ここぞというところでは銃ではなく、自分の化学の専門知識をフル活用した手製の爆弾などを使って派手にやっていて、それがまた格好良いんだよね。ちなみにシリーズ全編で殺された人数は270人でそのうちウォルターが殺したのは198人だとか。

そして主人公の相棒であるジェシー・ピンクマン、すでに名前からしてなんじゃこりゃってくらいにチャラい感じだけど、高校中退してドラッグの売人として生計をたてているジャンキーなんだけど、やはり可愛くて憎めないキャラクターではある。心優しくて情に厚いし、ウォルターが嘘ついてるのすぐに見抜いたり彼が具合悪い時に本人が隠そうとしていても敏感に気付いたりするし。

とくに前半は見ていてイライラすることもあるほどとにかくアホなんだけど話が進んで行くにつれてものすごい成長を見せる。最初の頃はさんざんアホだと罵倒されてばかりだったウォルターにも最後には自分と同等レベルの腕前の、一人前の存在として認められるほどになるんだけど、彼は絵を描くのが得意だったり手先がかなり器用みたいだから、繊細で高度な製造法を身につけられたんじゃないかとも思う。あと、ジェシーは高校中退していてこの物語の時には20代前半で、もう生徒でもなんでもないのにずっと最後までウォルターのことをホワイト先生って呼んでいるのもなんか面白いなーと思ったり。

ジェシーは両親と年の離れた弟とは別に暮らしていて、親に勘当されているような状態なので彼にとってはウォルターが本当の親みたいなもので、そこが大きなポイントでもある。演じている本人同士もこれがきっかけで親友になって、アーロン・ポールの結婚式の付添人をブライアン・クランストンがつとめたっていう話だけでも私はこの先も生きていけそうな気がする、と思ってしまうほどなのである。

f:id:tiffany_queen:20150523183000j:plain

ウォルターにはウォルター・ジュニアって、実の息子もいるんだが、これがジェシーとは全く違うタイプだけどとにかく可愛くて良い子なんだよね。障害があるけど健気にがんばっていて、お父さんのことが大好きなのも良い。そんな彼が最後には父親に対して早く死ねばいいのに、なんて憎むようになってしまって、父親が叔父を殺したと誤解したまま終わってしまうのはとても悲しい。主要な登場人物の中で、最後まで直接会うことがないのがジュニアとジェシーだけだっていうのもなんだか象徴的である。寝言で他の女の名前を言ってしまう的に、家でジュニアの前で寝言で「ジェシー……」ってウォルターが言ってしまうシーンもあるんだがあれもすごく切なくて悲しい。

その叔父というかウォルターにとっては義弟のハンクも私は大好きで、最後に死ぬ前にもシリーズ途中で一度死にかけるんだけど、ハンクをこんな目に遭わせるなんて!と憤ったりもしたものだ。あの、犯罪現場で屍体と一緒にイエーイ!って記念撮影するようなとことか大好き(笑)。めちゃくちゃタフで無敵っぽい感じだったのに、トゥコを殺したのがきっかけで精神的な弱さを露呈していくところもいいんだけど。彼は麻薬捜査官で、仕事ぶりはかなり優秀みたいだからウォルターがやっている事なんてすぐにバレるだろうなあと思っていたら意外にもなかなか気付かなくて、最後の最後になってようやく真実を知るわけだがなんでそんなに気づくのが遅くなったのか、もっと早い段階で知っていればこんな悲劇にはならなかっただろうにと思ってしまったりもする。

ちなみにハンク役のディーン・ノリスは、ブライアン・クランストンと共に映画「リトル・ミス・サンシャイン」にそれぞれワンシーンだけ、ちょこっと出演しているんだけど、これまた舞台がアルバカーキなんだよな!

 それからウォルターがの妻であるスカイラーと、彼女の妹でハンクの妻であるマリーと、全話にわたって登場する主要な女性キャラはこの姉妹だけなので、この二人がそれぞれに女の嫌な部分を体現してるっていう感じがする。夫に対する無理解とか。

スカイラーはウォルターのした事に対してずっと腹を立てていたけど、最後には全て許したような気がする。最後に彼が、いつもの「家族のためにやった事だ」という弁明ではなくて、自分がやりたかったから、自分のためにやったと本当のことを告白してくれたから許したんじゃないかと。

 

脚本や映像美ももちろんこのシリーズ全体の大きな魅力ではあるんだけど、個人的には、禁欲的な音楽の使い方にもかなりしびれた。まず、全体的に、あんまり音楽は使わなくて無音のシーンが多い。私だったら全編に渡ってカントリー系の音楽をがしがし流したい欲望に勝てなかっただろうと思うんだけど決してそんなことはしない。ここぞという場面だけで、ここぞという音楽を使う。使われている音楽のジャンルも幅広いんだけど全体的に古めだよね。歌詞の内容もストーリーに関係していて、その最たるものがラストシーンで流れる、バッドフィンガーの"Baby Blue"で、これまでのウォルターとジェシーの関係が凝縮されたような内容で、回想シーンが全くなくても自然と最初からこれまでの数々の場面が一気に蘇ってきてしまって、涙が止まらなくなってしまった。おかげでもうこの曲は日常的に聴くことはできなくなった。

 誰が死ぬとか予めわかっていてもいい、むしろ心の準備が出来て良いと思っているほどネタバレには寛容な私としては珍しくこのブレイキング・バッドに関しては厳格にネタバレを避けて最後まで観たんだけど、最初から、たぶん主人公は死ぬんだろうなということぐらいはなんとなく予想はついてたんだけど、でも、どうやってそこまで着地させるのかっていうことは全然想像がつかなかった。末期ガンで余命僅かといっても、病院のベッドで家族に看取られて死ぬような人物ではないし。で、確かにその予想通りというか、彼は自分が最も愛した場所で死ぬ。

 この最終話は、この回のエピソードそのものだけで、というよりは、この最終話の演出によって最初からこれまでのエピソードが一気に思い出されて、最初に見た時はなんとも思わなかったようなエピソードも最後再び思い出してみるとどれもこれも切なすぎて涙が止まらなくなって、その後何時間もずっと止まらなくて、そして廃人になって現在に至るという感じなのである。当分の間は他のドラマとか映画とか何も見る気になれなくて。これほどまでに大きく揺さぶられた作品はこれが初めてだと思う。なんというか、心に抱え切れる容量を完全にオーバーして決壊したって感じだ。

そして傷口に毒を塗るように、最初から最後まで字幕版で見たので今度は吹き替えでまた最初から見るという暴挙に出てしまった。二回目なら、逆に、冷静に見れるだろうというのもあるので。

f:id:tiffany_queen:20150526052039j:plain